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混合エキスパート(MoE)とは?

別の呼び名:Mixture of Experts、専門家混合、Sparse Mixture of Experts(SMoE)

用語解説 ・ 確かめた日 2026年11月8日 ・ 読む 14分

1分で解説

AIの中にたくさんの「専門家」を待たせておき、言葉のかけら(トークン)が1つ来るたびに、受付がそのうち数人だけを呼んで計算させる作り方のことです。

専門家といっても、人や別のAIではなく、AIの中で計算に使う数(パラメーター)のまとまりです。たとえば Mixtral 8x7B(Mistral AI)は、何段も重なった部品の段ごとに専門家が8人いて、受付(ルーター)が点数の高い2人だけを選びます。部品は全部で470億個ですが、1かけらで動かすのは130億個だけ。だから、計算をあまり増やさずにAIを大きくできます。ただし、呼ばれない専門家も、全部メモリに置いておく必要があります。

また、専門家の受け持ちは人が決めるのではなく、学ぶうちに分かれます。調べた研究では、数学や日本語のような話題・言語ごとには、はっきり分かれず、句読点や数のような、言葉の形や種類にそろう様子がありました。

よくある思い込み

「MoE の中には、数学の専門家や日本語の専門家のように、話題や言語ごとの専門家がいる」

専門家に、受け持ちのようなものが見えることがある、というところは合っています。でも、その受け持ちは、人が決めた教科や言語とは限りません。Mixtral を作ったチームが、科学の論文・医学や生物の論文の要旨・哲学の文章で、どの専門家がどれだけ選ばれたかを数えると、割合はよく似ていて、話題による、はっきりした分かれ方は見られませんでした。代わりに、1つの言葉を作るいくつかのかけらや、続けて並んだかけらが、同じ専門家によく回るなど、言葉の形や並びにそろう様子がありました。Google の別の研究(ST-MoE、2022年)でも、文章を読む側に、句読点・動詞・数などを受け持つ専門家が見つかった一方、日本語の「で」「なので」と英語の and が同じ専門家に回り、言語ごとの専門家は見つかりませんでした。どちらも、調べたモデルで見えたことで、どの MoE でも同じとは限りません。

図で解説

受付が8人の専門家から2人だけを呼ぶ図(Mixtral 8x7B の1つの段。かけらと点数は説明用に作った例)。左上の「言葉のかけら「が」」から矢印で、右の「受付(ルーター)が、8人それぞれに点数を付ける」へ。その下に専門家AからHの8つの箱が並び、点数はA 2点・B 1点・C 5点・D 1点・E 0点・F 4点・G 2点・H 1点。点の高いCとFは太い実線の枠で「呼ぶ」、ほかの6つは点線の枠で「休み」。CとFから下へ矢印がのび、「×0.7」「×0.3」の重みで「CとFの計算を、重みを付けて混ぜる」の箱に入り、右の「次の段へ」に進む。その下に「同じことを、32段くり返す(かけらごとに選び直す)」。いちばん下の帯:段ごとに8人から2人。470億個のうち、1かけらで動かすのは130億個。
受付(ルーター)が、言葉のかけら「が」について8人の専門家に点数を付け、点の高いCとFの2人だけを呼びます(太い実線の枠)。ほかの6人は、このかけらでは休みます(点線の枠)。2人の計算結果は、点数から決めた重みで混ぜて次の段へ渡し、Mixtral ではこれを32段くり返します。重みは、ソフトマックスという計算で、2人の点数を、合わせて1になる重みに直したものです。この計算では1点の差が約2.7倍の差になるので、5点と4点なら、およそ0.7と0.3です。かけらと点数は説明用の例です。
全部のパラメーターと、1かけらで動かすパラメーターを比べた図(各社の論文と説明書から)。棒は、それぞれのAIの全部を同じ長さにそろえてある。上に凡例:塗った四角は「1かけらで動かす」、点線の四角は「休む(でもメモリには置く)」。1段目:Mixtral 8x7B(Mistral AI、2023年12月)、8人から2人を呼ぶ。全部470億個、動かす130億個(約28%)。2段目:gpt-oss-120b(OpenAI、2025年8月)、128人から4人を呼ぶ。全部1168億個、動かす51億個(約4.4%)。3段目:DeepSeek-V3(DeepSeek、2024年12月)、256人から8人と、共有の1人。全部6710億個、動かす370億個(約5.5%)。いちばん下の帯:計算は、動かす分だけ。メモリには、全部を置く。
3つのAIの、全部のパラメーター(棒の全体)と、言葉のかけら1つで動かす分(塗った所)を、全部を同じ長さにそろえて並べました。動かすのは約28%・約4.4%・約5.5%です(資料の数から計算)。計算は塗った所の分で済みますが、どの専門家が呼ばれてもよいよう、メモリには棒の全体を置きます。
専門家は何の係かを、調べた2つの研究で示した図(Mixtral:2024年/Google の ST-MoE:2022年)。左の枠「Mixtral:3つの分野を比べると」:「科学の論文(arXiv)」「医学・生物の論文の要旨(PubMed)」「哲学の文章(PhilPapers)」の3つの札が、≒でつながる。下に「専門家ごとの選ばれ方が、よく似ていた」「→ 話題では、はっきり分かれず」。右の枠「Google の ST-MoE:専門家の受け持ち」(文章を読む側の専門家の例):「句読点ばかり」の専門家は「, , , , , - , ,」、「数が中心」は「37 19 27 Seven」、「動詞ばかり」は「died fell lost」、「名前のかけら」は「Mart Kent Med」。その下に「いろいろな国の言葉で学ばせると、「で」「なので」と and が、同じ専門家へ」。いちばん下の帯:そろっていたのは、話題より、言葉の形や種類。
左は Mixtral の研究で、科学の論文・医学や生物の論文の要旨・哲学の文章で、専門家ごとに選ばれた割合がよく似ていました(≒)。右は Google の ST-MoE の、文章を読む側の専門家の受け持ちの例で、句読点ばかり・数が中心など、言葉の形や種類の係が見えます。係は人が決めたのではなく、学ぶうちに分かれたものです。

たとえるなら

8つの窓口と、入口の案内係

大きな役所に、窓口が8つあるとします。来た人1人ごとに、入口の案内係が「この人は、この2つの窓口へ」と選んで回します。残りの6つの窓口は、その人の番では手を止めて、次の人を待ちます。全部の窓口を毎回回らせるより、ずっと早く済みます。

おもしろいのは、どの窓口が何を受け持つかを、誰も決めていないことです。たくさんの人を回すうちに、窓口の得意が自然に分かれていきます。それは「税金の窓口」「引っ越しの窓口」のような、分かりやすい分け方とは限りません。MoE を調べた研究では、句読点や数のような、言葉の形や種類にそろう様子がありました。

ただし、たとえが合わないところもあります。MoE で窓口に来る「人」は、質問まるごとではなく、言葉のかけら1つです。しかも段ごとに選び直すので、同じ文の中でも、かけらが変われば呼ばれる専門家も変わります。2つの窓口の答えは、点数の高い方を多めにして混ぜ、1つにして次へ渡します。そして、休んでいる窓口も、建物(メモリ)の中に、ずっと置いておく必要があります。

ポイント解説

「専門家」と「受付」は、何をしているの?

Google の機械学習の用語集は、MoE を「パラメーターの一部(エキスパートと呼ぶ)だけを使って、入ってきたかけらや例を処理し、ニューラルネットワークの効率を上げるやり方」と説明しています。つまり「専門家」(エキスパート)は、人でも別のAIでもなく、AIの中で計算に使う数(パラメーター)のまとまりです。Mixtral 8x7B を出した Mistral AI も、8人の専門家を「8つの別々のパラメーターのグループ」と書いています。

Mixtral では、32段に重なった部品の、各段の中の一部(フィードフォワードと呼ばれる部品のまとまり)が、8人の専門家に分かれています。言葉のかけら(トークン)が来ると、受付(ルーター。ゲートとも呼ぶ)が8人それぞれに点数を付け、点の高い2人を選びます。2人の計算結果は、点数から決めた重みで足し合わせて、次の段へ渡します。受付も、学ぶうちに決まる部品です。

これを段ごと、かけらごとに行うので、同じ文章の中でも、かけらが変われば呼ばれる専門家も変わります。論文も「どのかけらも2人の専門家しか見ないが、選ばれる専門家は、そのたびに変わりうる」と書いています。

名前の「8x7B」を掛け算すると560億ですが、論文の数は、全部で470億個です(会社の発表では467億個)。専門家に分かれているのは、段の中の一部の部品だけで、ほかの部品は分かれていないからです。

なぜ、全部の部品を動かさないの?

AIを大きく(パラメーターを多く)したいけれど、計算は増やしたくないからです。2017年の Google Brain の研究者たちの論文は、1文目で「ニューラルネットワークが情報を取り込める量は、パラメーターの数で限られる」と書いています。

でも、ふつうの作りのAIは、入ってきたもの1つごとに、全部のパラメーターを使って計算します。数を増やすほど、計算も増えます。そこで、入ってきたものごとに、ネットワークの一部だけを動かす(論文の言葉では「条件つきの計算」)。この論文は、何千もの専門家を並べた MoE で、計算の効率をわずかに落とすだけで、覚えられる量を1000倍より大きくできた、と書いています。

Mixtral の論文も、この作りは「パラメーターの数を増やしながら、費用と待ち時間を抑える」と書いています。Mixtral は、1かけらで動かすパラメーターが Meta の Llama 2 70B の5分の1なのに、論文で比べた試験の多くの分野で、Llama 2 70B を上回りました。

専門家は、何の専門家なの?

名前からは、数学の専門家や日本語の専門家がいるように思えます。でも、係は人が決めるのではなく、学ぶうちに分かれます。では、何で分かれたのか。2つの研究が調べています。

Mixtral の論文は、学ぶうちに、特定の分野の専門家ができたかを調べました。科学の論文(arXiv)・医学や生物の論文の要旨(PubMed)・哲学の文章(PhilPapers)で、専門家ごとに選ばれた割合はよく似ていて、論文は「意外にも、話題にもとづく、はっきりした割り当ての傾向は見られない」と書いています(計算問題の集まり〔DM Mathematics〕だけは、少し違いました)。

代わりに、Python の self や英語の Question のように、1つの言葉を作るいくつかのかけらが、同じ専門家によく回りました。示された例では、特に最初と最後の段で、プログラムの字下げのかけらが、いつも同じ専門家に回っていました。続けて並んだかけらを、同じ専門家が受け持つことも多くありました。論文は、専門家の選ばれ方は、分野より、文の形(構文)にそろっているように見える、としています。

Google の研究者たちの ST-MoE(2022年)では、文章を読み取る側の専門家に、句読点ばかり、動詞ばかり、数が中心、名前(固有名詞)のかけらが中心、といった受け持ちが見つかりました。文章を書く側の専門家では、受け持ちはずっと目立ちませんでした。いろいろな国の言葉で学ばせたモデルでは、日本語の「で」「なので」と英語の and が同じ専門家に回り、論文は、言語ごとの専門家の証拠は見つからなかった、と書いています。

ただし、これは調べた2つのモデルで見えたことです。DeepSeek の研究者たちは2024年、専門家をもっと細かく分け、みんなに共通の知識を受け持つ「共有の専門家」を別に置いて、それぞれの専門家が受け持ちをはっきり持てるようにする作り(DeepSeekMoE)を出しています。

計算が軽いなら、いいことばかり?

引きかえがあります。呼ばれない専門家も、次のかけらで呼ばれるかもしれないので、全部をメモリ(計算に使う机のような場所)に置いておく必要があります。Mixtral の論文は、動かすのに要るメモリは、1かけらで動かす130億個ではなく、全部の470億個に比例する、と書いています(それでも、Llama 2 70B よりは小さい)。

速さも、計算の量の割には上がらないことがあります。論文は、受付の仕組みによる余分な手間があり、たくさんの文章をまとめて処理する使い方のほうが向いている、と注意しています。

大きな MoE を手元で動かすときも、メモリが大事です。OpenAI の gpt-oss-120b(パラメーター1168億個。1かけらで動かすのは51億個)は、数を小さな形で持つ工夫(量子化)をして、80GBのメモリを持つ GPU(計算用の部品)1つに収まる、と説明書(モデルカード)に書いています。

人気の専門家に、仕事が集まりすぎないの?

放っておくと、集まります。2017年の論文は、受付は、いつも同じ数人の専門家に大きな重みを付けるようになりやすく、この偏りは自分で強まる、と書いています。よく選ばれる専門家ほど早く学び、受付にますます選ばれるからです。

そこで、学ぶときの減点(損失)に、全部の専門家が同じくらい大事に使われるよう促す分を足しました。2021年の Switch Transformers(Google)も、仕事が専門家に均等に配られるよう、補助の損失を足しています。この研究では、1人の専門家に決めた量より多くのかけらが来ると、あふれたかけらは、その専門家の計算を飛ばして、そのまま次の段へ渡されます。

DeepSeek-V3(2024年)の技術報告は、補助の損失を大きくしすぎると、AIの性能が落ちると書き、別のやり方を使いました。専門家ごとに「おまけの点」(バイアス)を受付の点数に足し、学ぶ1歩ごとに、混みすぎた専門家は下げ、すいている専門家は上げます。この点は、どの専門家を選ぶかだけに使います。

どこから始まったの?

考え方は古く、1991年の論文「Adaptive Mixtures of Local Experts」(Jacobs・Jordan・Nowlan・Hinton。マサチューセッツ工科大学とトロント大学)にさかのぼります。たくさんの別々のネットワークを組み合わせ、それぞれが、学ぶ例の一部を受け持つように学ぶやり方です。母音を聞き分ける課題で、学ぶうちに、仕事がほどよい小さな仕事に分かれ、それぞれを、とても簡単な「専門家のネットワーク」(expert network)が解いた、と書いています。

2017年、Google Brain の Shazeer たちが、これを大きな言葉のAIに使いました。何千もの専門家から、受付がほんの一部だけを選ぶ「まばらな」MoE で、パラメーターは最大1370億個。文章の続きを当てる課題と、翻訳で試しました。

2021年の Switch Transformers(Google)は、選ぶ専門家を1人だけにして仕組みを簡単にし、同じ計算機で、学ぶ速さが最大7倍になったと書いています。いちばん大きなモデルは、専門家が2048人、パラメーターは1.6兆個でした。その後、Mistral AI が2023年12月に Mixtral 8x7B を公開し、2024年1月に中身の論文を出しました。

どんなAIが、MoE を使っているの?

作った会社が、論文や説明書で MoE だと書いているものには、次のようなものがあります。Mixtral 8x7B(Mistral AI。段ごとに8人から2人)。DeepSeek-V3(DeepSeek、2024年12月。パラメーター6710億個のうち、1かけらで動かすのは370億個。専門家に分かれた段では、256人から8人と、共有の専門家1人)。gpt-oss-120b と gpt-oss-20b(OpenAI、2025年8月。120b は128人、20b は32人の専門家から、1かけらごとに4人を選ぶ)。gpt-oss は、重み(パラメーター)を公開したモデルです。

Google は、Gemini 1.5 Pro(2024年)の技術報告で「疎な(まばらな)MoE の、トランスフォーマーを元にしたモデル」と書き、Gemini 2.5 の技術報告(2025年)でも、Gemini 2.5 のモデルは疎な MoE だと書いています。どちらも、専門家の数やパラメーターの数は書いていません。

OpenAI は、GPT-4 の技術報告(2023年)で、競争と安全のことを考えて、作り(モデルの大きさを含む)の詳しいことは書かない、としています。Claude(Anthropic)についても、MoE かどうかを書いた公式の資料は、このページを作るときには見つけられませんでした。ですから、ChatGPT や Claude の中身が MoE かどうかは、ここでは言えません。

確認問題

  1. 問1Mixtral の研究チームが、科学・医学や生物・哲学の文章で、専門家ごとに選ばれた割合を数えると、どうだった?

    答えと解説

    答え:B 3つの分野で、選ばれる割合がよく似ていた

    科学の論文(arXiv)・医学や生物の論文の要旨(PubMed)・哲学の文章(PhilPapers)で、専門家ごとに選ばれた割合はよく似ていました。論文は、話題にもとづく、はっきりした割り当ての傾向は見られない、と書いています。代わりに、言葉の形や並びにそろう様子がありました。

    くわしくは → ポイント解説:専門家は、何の専門家なの?

  2. 問2Mixtral を動かすとき、メモリに置いておく必要があるパラメーターは?

    答えと解説

    答え:C 部品を全部合わせた、470億個ぶん

    1かけらで動かすのは130億個だけですが、次のかけらでどの専門家が呼ばれるか分からないので、全部をメモリに置きます。Mixtral の論文は、動かすのに要るメモリは、全部の470億個に比例する、と書いています。名前の8x7Bを掛けると560億ですが、専門家に分かれているのは段の中の一部だけなので、全部は470億個です。計算は軽いけれど、大きな机が要る、という引きかえです。

    くわしくは → ポイント解説:計算が軽いなら、いいことばかり?

  3. 問32017年の論文は、学ぶうちに、受付が専門家を選ぶ様子がどうなりやすいと書いている?

    答えと解説

    答え:A 同じ数人ばかりに、大きな重みを付けやすい

    受付は、いつも同じ数人の専門家に大きな重みを付けるようになりやすく、この偏りは自分で強まります。よく選ばれる専門家ほど早く学び、ますます選ばれるからです。そこで、全部の専門家が同じくらい使われるよう促す決まりを足します。

    くわしくは → ポイント解説:人気の専門家に、仕事が集まりすぎないの?

参考文献と確かめ方

このページは、上の資料をもとにAIが書き、書いたAIとは別のAIが、資料の本文と照らして確かめました(2026年11月8日)。理学の修士号と、高校理科の教員免許を持つ人も読んで確かめてから出しています。数字は、その時点のものです。わかりにくかったところ、誤りのご指摘、解説してほしい用語は、[email protected] へお寄せください。

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